鬼北のきじ鍋とは? 「鬼」の町で半年かけて育つ、熟成きじという冬のごちそう

きじを食べたことはありますか?
昔話の「桃太郎」で、鬼退治のお供をしたあのきじです。そのきじを、なんと「鬼」の名前がつく町が、冬のごちそうとして育てています。
愛媛県の南、宇和島から列車で20分ほど山へ入った鬼北町(きほくちょう)。全国の自治体の中でただひとつ「鬼」の字がつくこの町は、全国でも有数のきじの産地です。冬になると、町の名物「きじ鍋」の季節がやってきます。
鬼北町で育てられている高麗きじと同じ仲間(Phasianus colchicus)の雄。写真はイギリスで撮影されたもので、鬼北町のきじではありません 撮影: Brian Robert Marshall / Wikimedia Commons CC BY-SA 2.0
ひと目でわかる、鬼北のきじ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| どこの名物? | 愛媛県鬼北町(宇和島から内陸へ。JR予土線の近永駅が玄関口) |
| どんなきじ? | 首に白い輪がある「高麗(こうらい)きじ」 |
| 育てる期間 | 半年あまり(約180日〜200日以上と紹介されています) |
| 名前 | 鬼北熟成雉(きほくじゅくせいきじ) |
| ここがスゴイ | 処理したあと48時間寝かせて、うま味を引き出してから出荷 |
| 旬 | 冬(出荷は冬に一度だけ) |
| 定番の食べ方 | きじ鍋、きじ汁 |
「鬼」の町が育てる、桃太郎のお供
鬼北町は、2005年に旧日吉村と旧広見町が合併して生まれた町です。鬼ヶ城山系の北側にあることから、古くから「鬼北」と呼ばれてきました。
町を歩くと、鬼ときじがいっしょに出迎えてくれます。道の駅には、鬼の肩にきじが乗った大きなモニュメント。鬼退治のはずが、ここでは鬼ときじが仲よし――そんな遊び心も、この町らしいところです。
鬼北町広見の山あいを走る国道320号。きじはこうした山あいの町で育てられています 撮影: osami / Wikimedia Commons パブリックドメイン
町でのきじの飼育が本格的に始まったのは、平成の初めごろ。先代の生産者たちが試行錯誤を重ね、全国でも指折りの産地に育て上げました。
日本の国鳥ニホンキジの雄。鬼北町で食用に育てている高麗きじとは別の仲間です 撮影: Alpsdake / Wikimedia Commons CC BY-SA 3.0
ここがスゴイ① 半年かけて、のびのび育てる
スーパーで見かける鶏肉の多くは、2か月ほどで出荷されるのが一般的です。鬼北のきじは、そのおよそ3倍、半年あまりをかけて育てられます。
愛媛県総合教育センターの資料によると、鬼北町ではきじがのびのびと育つよう、できるだけ自然に近い環境で飼育しています。生産者どうしで飼料のルールまでそろえ、一羽ごとの差が出ないようにしているのもこだわりです。
手をかけて育てたきじは、冬に一度だけ出荷されます。つまり鬼北のきじは、一年に一度しか出会えない「冬だけのごちそう」なのです。
ここがスゴイ② 48時間「寝かせて」から届ける
鬼北のきじの名前に「熟成」とつくのは、出荷の前に肉を寝かせるからです。
きじ肉は、処理してすぐに食べるよりも、少し寝かせたほうがおいしくなります。そこで鬼北町では、処理したあと48時間寝かせたきじ肉を出荷しています。寝かせたあとは急速に凍らせ、おいしさを閉じ込めたまま全国へ。関東や関西の飲食店にも届き、フレンチなどの料理にも使われています。
鬼北のきじには18種類のアミノ酸が含まれ、食肉としてはアミノ酸の多い肉だと紹介されています。うま味のもとが多い肉を、さらに寝かせて引き出す。だからこそ、だしにしたときの味わいが違うのです。
冬はやっぱり、きじ鍋
鬼北のきじを味わうなら、まずはきじ鍋です。
身と骨からとっただしは、澄んでいるのにしっかりとうま味が出ます。そこに白菜やねぎ、きのこなどの冬野菜をたっぷり。最後は雑炊やうどんで、だしを一滴残らず楽しみたいところです。
町をあげた「ジャンボきじ鍋」
町いちばんの人気者も、やっぱりきじ鍋です。10月に開かれる町の最大のイベント「でちこんか」では、町の資料によると、きじを使った「ジャンボきじ鍋」がなんと約2,500杯も無料で振る舞われました。北海道から訪れた人もいたそうです。
給食にも出る「きじ汁」
鬼北の子どもたちにとって、きじはふだんの味でもあります。県の学校給食の資料には、鬼北町の地域食材を使った料理として「きじ汁」が載っています。昆布とかつお節のだしにきじ肉を入れ、にんじん、大根、こんにゃく、豆腐を煮た、やさしい味の汁物です。町内の小学校の給食では、いまもきじ肉の料理が出ることがあります。
鬼北のきじ、こう食べたい
| 食べ方 | おすすめポイント |
|---|---|
| きじ鍋 | 澄んだだしに冬野菜。締めの雑炊まで楽しめる鬼北の定番 |
| きじ汁 | 根菜と豆腐でやさしい味。給食にも出る家庭の味 |
| 炊き込みごはん | だしごと炊けば、きじのうま味がごはんにしみる |
| 焼いて | 身の味をそのまま楽しむなら、シンプルに塩で |
きじを育てる人を、町で育てる
おいしいきじには、育てる人が欠かせません。ところが、かつて10人以上いた生産者は、いまでは数名にまで減っています。
そこで町は、地域おこし協力隊の制度を使って新しい担い手を育てています。協力隊員は町の農業公社の中にある「鬼北きじ工房」に所属し、3年間で飼育から加工、販売までを学びます。決まったルールで育てたきじは買い取ってもらえる仕組みもあり、協力隊を終えてきじ農家として独り立ちした人もいます。
鬼北のきじ鍋を食べることは、この町のきじを未来につなぐ応援にもなるのです。
買う・食べるには
- 鬼北きじ工房(一般社団法人 鬼北町農業公社):鬼北のきじを加工・販売しています。鍋用のセットや丸ごと一羽などがあります。
- ふるさと納税:鬼北町の返礼品で、きじ鍋のセットや丸鶏、食べ比べのセットが見つかります。家できじ鍋を楽しむならいちばん手軽です。
- 町内で味わう:冬になると、きじ鍋を出す店があります。季節や仕入れで変わるので、出かける前に確かめてください。
鬼北町への行き方
予土線を走る「鉄道ホビートレイン」(写真の撮影場所は鬼北町とは限りません) 撮影: Spaceaero2 / Wikimedia Commons CC BY-SA 4.0
鬼北町の玄関口は、JR予土線の近永(ちかなが)駅。宇和島駅から列車で約20分です。予土線には、0系新幹線に似せた「鉄道ホビートレイン」も走っていて、列車の旅そのものも楽しめます。
鬼北町の玄関口、JR予土線の近永駅 撮影: Navian / Wikimedia Commons パブリックドメイン
ただし町は広く、公共交通は限られるので、町を回るなら車が便利です。宇和島から国道320号を東へ。山あいに田んぼが広がる、のんびりした景色が迎えてくれます。
