いずみや・丸ずしとは?酢飯の代わりにおからを使う愛媛の郷土ずし

愛媛のスーパーや産地直売所の惣菜売り場では、銀色の小魚で俵型の具を巻いた寿司を見かけることがあります。
見た目は一般的な握り寿司に似ていますが、中心にあるのは白いごはんではありません。
「いずみや」は、酢飯の代わりに味付けしたおからを主に使う愛媛の郷土ずしです。東予・中予では「いずみや」、宇和島をはじめとする南予では「丸ずし」と呼ばれています。
地域や家庭によって、使う魚、形、味付けはさまざまです。おからに少量のごはんを混ぜるレシピもあり、必ずしも「米をまったく使わない」とは限りません。
この料理の背景をたどると、新居浜の別子銅山と住友家にまつわる伝承が見えてきます。
名前は住友の屋号に由来するという説
「いずみや」という名前は、住友家の屋号「泉屋」に由来すると伝えられています。
元禄4年(1691年)、現在の新居浜市で別子銅山が開坑しました。
農林水産省の「うちの郷土料理」では、住友家で米を使った寿司が食べられていた一方、庶民にとって米は容易に口にできるものではなかったため、おからを米の代わりに使ったという伝承を紹介しています。
その料理が住友家の屋号にちなみ「いずみや」と呼ばれ、住友家に雇われていた県内各地の人々を通じて広まったとする説もあります。
ただし、これは現在まで伝わる由来の一つです。いずみやや丸ずしが、いつ、どこで、現在の形になったのかについては諸説あります。
別子銅山は1973年の閉山まで282年間にわたって採鉱が続けられました。いずみやは、その周辺で暮らした人々の食の知恵と、銅山の歴史を結びつける料理として語り継がれています。
東予・中予では「いずみや」、南予では「丸ずし」
愛媛大学の研究では、東予から中予では主に「いずみや」、南予では主に「丸ずし」という名称が使われてきたと整理されています。
農林水産省によると、松山市と新居浜市は「いずみや」、宇和島市は「丸ずし」の名称でレシピを公開しています。大洲市と内子町でも、丸ずしが地域の郷土食として取り上げられています。
一方、宇和島市は丸ずしについて、米が貴重だった時代におからを使って量を補った料理とする説を紹介しています。
新居浜のいずみやがそのまま南予へ伝わったのか、それぞれの地域で似た料理が育ったのかを、一つの説だけで断定することはできません。
確かなのは、近くで獲れる魚と、豆腐づくりで生まれるおからを無駄なく組み合わせる知恵が、愛媛県内の各地で受け継がれてきたことです。

魚は地域や家庭によって変わる
いずみやや丸ずしに使う魚は、一種類に決まっていません。
農林水産省は、小鯛やアマギなどの旬の小魚を例に挙げています。新居浜市のレシピではコノシロ、宇和島市の丸ずしでは、ぜんご、ほうたれ、キビナゴなどが使われています。
魚を背開きにしておからを詰めるものもあれば、三枚におろした身で俵型のおからを巻くものもあります。
瀬戸内海に面した東予・中予と、宇和海に面した南予では、身近で手に入る魚が異なります。同じ「おからを使った寿司」でも、地域によって見た目や味わいが変わるのはそのためです。
つくり方は魚とおからの二段構え
基本的なつくり方は、魚とおからをそれぞれ仕込んでから組み合わせます。
魚の仕込み
小魚を開いて骨や内臓を取り除き、塩をあてます。その後、酢や甘酢に漬けて締めます。
魚の開き方や漬ける時間は、魚の種類やレシピによって異なります。
おからの仕込み
おからを炒って水分を飛ばし、砂糖、酢、塩などで味を付けます。
しょうがやねぎ、ごま、オノ実などを加えるレシピもあります。地域によっては、卵黄や少量のごはんを混ぜることもあります。
味付けしたおからを俵型にまとめ、酢締めにした魚で巻く、または魚の中へ詰めれば完成です。
材料は素朴ですが、おからの水分、甘酢の加減、魚の締め方によって仕上がりが変わります。使う魚や味付けに、それぞれの地域や家庭の違いが表れる料理です。
暮らしの知恵が祭りや祝いの料理に
いずみやや丸ずしは、米が貴重だった時代に、おからを活用する暮らしの知恵から生まれたと伝えられています。
昔は日常的にも食べられていましたが、祭りや祝いの席にも並ぶ郷土料理として受け継がれてきました。
宇和島では、ふくめん、鯛そうめん、鯛めしなどとともに、丸ずしが地域を代表する料理として紹介されています。
高価な食材を集めた料理ではありません。しかし、魚を丁寧に開き、おからを炒り、酢で味を整えて一つずつ形にする。その手間が、祭りや家族の節目の食卓をつくってきました。
いま、どこで食べられる?
農林水産省は、いずみやや丸ずしがスーパーや産地直売所の惣菜コーナーで販売されていると紹介しています。
一方で、家庭でつくる機会は減っており、どの店舗でも常に販売されているわけではありません。季節や仕入れによって取り扱いが変わる可能性があります。
宇和島や新居浜などを訪れた際は、スーパーや産地直売所の郷土料理コーナーを確認してみてください。確実に購入したい場合は、訪問前に店舗へ取り扱いを確認すると安心です。
銀色の魚で包まれた小さな一貫には、愛媛の海、大豆を使い切る暮らしの知恵、そして銅山とともに語られてきた300年以上の記憶が重なっています。
